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2020年10月09日アメリカ
第16回:知っておくべきアメリカの人事・労務 第2回
日本企業がアメリカでビジネスを行うにあたり、知っておくべき人事・労務に関するルールや慣習の解説第2回となる今回は、アメリカで一般的な雇用慣習である「Employment At Will」についてご紹介します。
日本とは違いアメリカでは、雇用主と従業員の関係は、一般的に「Employment At Will」という雇用関係になります。これは、雇用が双方の自由意志によって成り立っていることを示しており、言い換えれば、雇用主および従業員はいつでも、そして基本的には理由の有無に関わらず、解雇または退職ができるということを意味しています。アメリカでは、役員や幹部クラスの従業員を除き、ほとんどがEmployment At Willでの雇用形態となっており、国内の労働者全体の70%以上を占めていると言われています。
雇用主および従業員にとっての「Employment At Will」とはどのようなものか、概要およびその注意点について解説したいと思います。
従業員にとってのEmployment At Will:
従業員は、自身の働く意思が無くなった時点で、いつでも会社を去ることができ、その理由を雇用主に伝える義務はありません。そのため、従業員にとっては勤続年数や仕事のポジションに関わらず、自身のキャリアアップやより良い職場環境を求めて自由に転職することが可能になります。従業員が繁忙期の真只中に理由なく退職することももちろん可能で、雇用主はそれを拒否することができません。従業員は、法律で定められているとおりに未使用の有給休暇の買い取りなどを受ける権利があります。
一方で、自分の意思や会社の業績に関係なく解雇される可能性があり、コロナ禍において、レストランなどの外食産業をはじめ、観光業、小売業などに従事する従業員が大量に解雇されたのは記憶に新しいところです。
雇用主にとってのEmployment At Will
従業員と同じように雇用主は、雇用の意思が無くなった時点で、基本的にいつでも従業員を解雇することができるため、会社にとって必要な人材だけを残す、業績に応じて人員調整をするといった柔軟な人事戦略が可能になります。
一方で、有能な人材を長期的に雇用することが困難になる可能性があり、コロナ禍まで歴史的低水準で推移していた失業率のもとでは、労働者は常により良い条件がないかアンテナを張っているという状況でした。
Employment At Willの注意点
「Employment At Will」のもとで、基本的にいつでも従業員を解雇できるとは言うものの、法令等に違反する場合はもちろん認められません。例えば、下記のような理由で従業員を解雇する場合は、不当解雇であるとみなされ訴訟に発展してしまう可能性があるため十分に注意する必要があります。解雇の際には、法令等に違反していないことを明確にするために、正当な理由とその客観的な証拠を準備しておくことはもちろん、従業員への通知までのやりとりも慎重に行う必要があります。
・市民的権利に反する解雇
陪審員制度など、国や州が定めた国民の義務に従事するために従事員が欠勤したことが解雇理由にあたる場合。
・暗黙の契約に反する解雇
口頭や書面などで、長期雇用を保証していたとみなされる従事員を解雇する場合。直接的な約束や契約が無くとも、雇用が継続するようなことを匂わせる言動や、将来的な報酬の話などを繰り返すことで、長期的な雇用を約束した暗黙の契約であったとみなされる可能性があります。
・雇用差別禁止法に反する解雇
連邦公民憲法第七章で禁止されている雇用差別(人種、性別、宗教、出生地などに基づく差別)が理由で従事員を解雇する場合。
・公益通報者保護法に反する解雇
連邦法および多くの州法にあるWhistleblower Protection Act(公益通報者保護法)の違反となる、企業の違法行為や不正を告発した従事員を解雇する場合。
これらの例のほかにも、州や自治体によって異なる法令等があるため、従業員を解雇する際は、該当する州や自治体の法令等を慎重に確認する必要があります。
以上のように、解雇、退職の自由度が高いEmployment At Willでの雇用は、日本の雇用慣習とは大きく異なります。企業は柔軟な雇用を実現することができますが、一方で従業員が事前通告なしで退職してしまうこともあるため、属人化しない組織体制を構築することが重要です。また、必ずしも従業員が行う必要がない業務については、アウトソーシングを活用することも有用でしょう。同時に、必要な人材、残って欲しい人材には給与、ボーナス、福利厚生、高いポジションなどの、優秀な人材の流出を防ぐような工夫が必要となります。アメリカの雇用習慣は日本とは大きく異なるため、日系企業にとって不得手な分野の一つと言え、組織体制の標準化・簡素化・明瞭化、アウトソーシング、雇用関連の法令、人事戦略など、専門家のアドバイスを受けながら、一度見直してみてはいかがでしょうか。
By 上野 裕美
Fair Consulting USA Inc.
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【PDF版】FCUS News letter vol. 16 At-Will