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2021年02月08日アメリカ
第24回:知っておくべきアメリカの人事・労務 第7回
Health Insurance/アメリカの健康保険
アメリカの医療費が非常に高額であることは、ご存じの方も多いのではないでしょうか。アメリカ政府のウェブサイトによると、足を骨折した場合7,500ドル(約78万円)ほどの医療費が、病院に3日間入院した場合は30,000ドル(約312万円)ほどの医療費が発生します。このような、医療機関の自由裁量で決められる高額な医療費はアメリカ人の生活にとって大きな負担となっており、自己破産の原因のひとつであるとも言われています。そうであるにもかかわらず、アメリカには日本のような国民健康保険制度はありません。連邦政府が提供しているのは65才以上の高齢者や身体的障害を持つ人だけが加入できるMedicare(メディケア)のみです。Medicaid(メディケイド)と呼ばれる州が運営する健康保険もありますが、これは著しく所得が低い人のみが対象です。そのため、これらの対象外となる人は、個人で保険に加入するか、勤務先や所属団体が提供するグループ保険に加入することになります。
個人で健康保険に加入する場合、高額な保険料にもかかわらず自己負担の割合が非常に高いなど、内容の良くないプランが多いのが現状です。そのため、アメリカで健康保険に加入している人のうち約6割が、自身または家族の勤務先を通してグループ保険に加入しています。従業員は会社が提供する福利厚生の中で健康保険を最も重視しており、雇用主としてはしっかりと内容を理解しておく必要があります。今回は、日本とは大きく異なるアメリカの健康保険の概要と、会社がグループ保険に加入するにあたって注意すべき点などをご紹介します。
健康保険の種類
日本ではひとつの健康保険証で様々な専門医にかかることができますが、アメリカの健康保険の種類は大きく下記の3つに分かれます。
①Medical Insurance(医療保険)
PPO (Preferred Provider Organization) またはHMO (Health Maintenance Organization) の2種類に分かれます。下記の歯科保険、視力矯正保険に該当しない医療行為すべてが対象となります。
②Dental Insurance(歯科保険)
歯科治療の内容を、予防、基礎治療、高度治療に区分し、それぞれ異なるカバレッジが適用されるのが一般的です。保険料のやや高いプランでは、歯列矯正やインプラントなども保険でカバーされることがあります。
③Vision Insurance(視力矯正保険)
視力検査および眼鏡やコンタクトレンズの購入などに必要な費用がカバーされます。目の病気や傷の治療の場合は、医療保険の対象となります。
※一部の州においては、州の基準を満たす内容の医療保険に加入していない人は、罰金の対象となります。ただし、歯科保険や視力矯正保険については、歯が丈夫である、視力が良いという理由で加入しないことは問題ありません。
ネットワーク
ネットワークとは、保険会社と提携している医師、病院、検査機関などの医療機関が集まって作られた組織です。Medical、Dental、Visionのどの保険においても、保険会社が定めるネットワーク内の医療機関を利用しない限り保険が一切使えない、または自己負担割合が大幅に増えることがほとんどです。日本のように、どこでも好きな病院に行って同様に健康保険を使えるわけではありません。
保険会社は、大病院、人気の医者、高度で専門的な治療ができる医者などに対しては別途報酬を支払ったり、医療費の請求をそのまま受け入れたりすることで、自らのネットワークに取り込み、強化します。一方、条件交渉によりに変化があり、それに双方が合意しない場合には、医療機関が保険のネットワークから離脱してしまうこともあります。病院にかかりたい時はまず自身の加入している保険会社に問い合わせ、どの医療機関がネットワークに加入しているかを確認します。
医療保険の種類
①HMO (Health Maintenance Organization)
HMOプランでは、まずネットワーク内のPrimary Care Physician/PCP(かかりつけ医)を一人選び、病院にかかりたい時は常にこのPCPを通さなければいけません。PCPはほとんどの場合、内科医や、簡易的で包括的なヘルスケアを提供するファミリー・ドクターと呼ばれる医者です。そのため、たとえば皮膚科、整形外科などの専門医にかかりたい時でも、まずPCPを受診して紹介を得なければいけません。またHMOプランにおいては、ネットワーク外の医療機関では保険が一切使えないのが一般的です。そのかわり、保険料や診察時の自己負担額は比較的低額です。
②PPO (Preferred Provider Organization)
PPOプランでは、ネットワーク内の医療機関であればどこでも自由に行くことができます。ネットワークもPPOの方がHMOより広く、さまざまな専門分野を含む医療機関が多数加盟しているため、受診の選択肢が多くなります。またネットワーク外の医療機関でも保険が使えることが多いですが、自己負担の割合は増えます。保険の自由度が高い分、保険料や診察時の自己負担額はHMOに比べて高額になる傾向があります。
③POS (Point Of Service)
HMOとPPOの特徴を組み合わせたハイブリッド型で、一部の保険会社が近年導入し始めている新しいプランです。HMO同様にPCPを通して病院にかかる必要がありますが、ネットワーク外の医療機関でも保険が使えるという点が特徴です。
保険用語の意味
健康保険のプランを比較する際、よく出てくる用語についていくつか紹介します。
・Annual Deductible(免責額):保険を使用し始める前に、まず自己負担しなければいけない年間上限額。
・Coinsurance(共同負担割合):Deductibleを超えた分の医療費に対し、自分が負担しなければならない割合。固定金額ではなく、医療費の総額に対するパーセンテージ。
・Copay(自己負担額):医療サービスを受けるたびに患者が支払う固定金額。受ける医療サービスの内容や、利用する医療機関によってCopayの金額は変わる。
・Annual Out-Of-Pocket Maximum(自己負担上限額):Deductible、Coinsurance、Copayなどすべて含めた自己負担の年間合計額の上限。この額に達した時点で、その後の医療費の100%を保険がカバーする。
例えば、大きな事故や病気で12,000ドルの医療費が発生したとします。Deductibleが2,000ドル 、Coinsuranceが 30%、 Out-Of-Pocket Max が6,000ドルの保険を持っていた場合、まず2,000ドルの免責額を自腹で支払った後、医療費10,000ドルの30%を自己負担することになります。最終的に自分で支払う金額の合計は5,000ドルとなります。Out-Of-Pocket Maxの6000ドルには満たないため、これ以上の補償は受けられません。
健康保険の提供義務
オバマ政権下で制定されたAffordable Care Act(ACA)により、フルタイム従業員 (又はフルタイム同様の社員数/Fulltime Equivalent Employees) を50名以上抱える雇用主は、健康保険を提供することが義務付けられました。雇用主はグループ保険に加入し、従業員とその扶養家族に加入の権利を与えます。ほとんどの会社が、Medical、Dental、Visionすべての保険を用意しており、会社が保険料の一部または全額を負担するのが一般的です。さらに、それぞれの保険において複数プランを用意し、従業員が自由に選択することができる場合もあります。例えば医療保険において、HMOまたはPPOのいずれか好きなプランに加入できることは、従業員にとっては嬉しい選択肢であるといえるでしょう。一方で、複数の州に事務所を持つ会社の場合、州や自治体によって使用できる保険の種類が限定されたり、ネットワークに大きな違いがあったりするため注意が必要です。すべての従業員に対し、同程度の内容の健康保険を提供できるよう工夫しなければいけません。
Kaiser Family Foundation (KFF) が発表した2019年の調査によると、雇用主が提供する健康保険料の平均は、従業員一人につき年間7,188ドル、扶養家族を含める場合は年間20,576ドルでした。そのうち雇用主は、従業員一人の保険料の平均80%を、扶養家族の保険料については平均68%を負担しています。従業員を雇う際は、給料だけではなく健康保険料もコストとして計算することを忘れてはいけません。
中小企業の健康保険
内容の良い健康保険を福利厚生として提供することは、従業員の採用や長期にわたる確保(リテンション・マネジメント)において非常に有効になりますが、中小企業とその従業員の双方にとってベストな保険プランを見つけることは簡単ではありません。中小企業向けのグループ保険は一人当たりの保険料が高額になる傾向がある上、一人の従業員やその扶養家族が高額な医療費を請求した際などに、加入人数が少ないが故、保険料が大きく値上がりしてしまうこともあります。また全従業員の一定割合の加入が保険加入の条件になっていることもありますが、従業員が、自身の配偶者や家族が加入している内容のより良いグループ保険に扶養家族として入る場合、条件が満たせなくなる可能性もあります。
前述のKFFの同調査によると、福利厚生としてグループ保険に加入し従業員に提供している会社の割合は、従業員200人を超える会社では約99%にのぼりますが、従業員が10人未満の零細企業においては、わずか45%に過ぎません。
会社の規模やその他のやむを得ない事情でグループ保険への加入が難しい場合には、従業員が個人保険に加入し、会社が保険料と従業員負担の医療費実費を一部または全部還付することや、高免責・低保険料の医療保険とHealth Saving Account(HSA)と呼ばれる税優遇のある医療用貯蓄口座の開設・雇用主からの助成金を組み合わせるなどが代替策として考えられます。代替策を使う場合であっても、従業員が安心して医療を受けられる、充分な内容の福利厚生となるよう工夫しましょう。
アメリカの医療システムや健康保険の仕組みは非常に複雑で、アメリカ人でも内容を詳しく理解していない人が多くいるため、日系企業にとっては、日本と全く異なる考え方に戸惑うことが多いと思います。現地の保険会社や専門家などに相談し、どのような点を重視して保険を選べば良いのか?一般的な保険の内容と比べてどうなのか?など、しっかりと内容を理解しておく必要があります。
By 上野 裕美
Fair Consulting USA Inc.
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【PDF版】FCUS News letter vol. 24 Health Insurance